DAC比較試聴(EXOGAL COMET and ARCAM rDAC)

比較試聴後編ッ>挨拶

まえがきはこちら
hikari-sekai.hatenablog.com

あれから実はそれぞれの製品レビューを性能から外見やら細かく書いていたのですが、冗長になってしまったので今回の記事ではEXOGAL COMETとARCAM rDACの比較試聴の部分を主に載せようと思います。
試聴システム全景
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ARCAM rDAC スペック
デジタル入力 USB/Type-B:32,44.1,48,88.2,96(kHz)
同軸:32~192kHz 光(TOS):44.1~48kHz
アナログ出力 RCA×1
サイズWxHxD 160×40×111(mm)
電源:6V DC、最大600mA
重量0.7Kg 定価¥61,950 £300
DAC chip:Wolfson 8741

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まえがき

ARCAM(アーカム)は1972年創業の英国老舗オーディオブランド。以前はDENONが輸入代理店を務め、アンプやCDプレーヤーなどが輸入されていましたが、その後継の商社が倒産に伴い現在日本には導入されていません。
イギリスらしく好みの分かれそうなシンプルだがともすると野暮ったいデザインと、安価でありながら穏やかで安心感のある音づくりは独自の魅力があると思います。
rDACもパッと見はお弁当箱のような印象を受けますが、アルミダイキャストの筐体は意外なほど質感悪くないです。
底面は圧力鍋パッキンのような固めのシリコンゴム素材。廉価なインシュやスパイクを色々試しましたが、そのままが一番という結果に。

導入経緯

2012年発売ですがその当時は各社ハイファイ志向の高解像度主義とスペック競争の真っただ中で、肝心の音は中低域がごっそりかけていたり質感がイマイチだったりして、エントリーからミドルクラスに目を向けても中々コレ!と言った製品に出会うことが出来ませんでした。(ちなみに私のはじめてのDACはHRT Music Streamer II。今のUSBケーブルより安いですね。いやはや遠くまで来たものだ)
そんな中で聞いたこのDACは初めて”これは好みの音”だと確信し、当時まだ固かった財布の紐をいとわず即買いするほど鮮烈で(当時知る限り)唯一無二の音でした。
余談ですが、当時のDACはUSB接続と他のデジタルインで音が違う(クオリティに差がある)事が少なくありませんでした。店頭で気に入ったDACでもいざ実際USBで接続してみるとイマイチになってしまった事も。USB接続はノイズ対策などの観点から難しい側面があったのでしょう。ところがrDACに関してはUSBの音がその他のデジタルインに劣るどころか、むしろ光接続などよりもUSB接続の方が魅力的な音が鳴ります。これもUSB接続メインの人間としてはありがたかったです。あくまで想像ですが、じつはrDACはハイエンドDACを手掛けるdCS (Data Conversion Systems)と技術協力をしていた事が本国サイトに記されており、そのdCSの技術が活かされた結果なのではなかろうかと思います。こういった事をもっとウリにすればよかったのになぁ……。

rDACの音質傾向

rDACの最大の魅力であり他の凡百のDACと一線を画す特徴は、自然でふわりと浮かび自然と上がり前へ出てくる実在感あるボーカル表現にあります。
低域も充実しているが押し付けがましくないので、まるで伴奏がボーカルを引き立ててくれるように誇張感なく楽しめます。
この”楽しめる”というのは重要で、定価で6万円ということもあって情報量や空間の広がり、音の分離感などはあくまで価格なりですが、音楽を聞く上で大事な部分をメリハリ良く聞かせてくれるおかげで、先のクオリティの差が音楽鑑賞する上で不満に直結しません。
限られた予算であれもこれもと欲張るのではなく、音楽を聞く上で大切な部分の表現力に注力したARCAMの聞かせ上手な音づくりはまさにセンスの発露と言えるでしょう。

EXOGAL COMET スペック
デジタル入力 同軸(BNC)×1 光(TOS)×1 
AES/EBU(XLR)×1 USB/Type-B×1
アナログ入力 RCA×1
アナログ出力 RCA×1 XLR(バランス)×1 ヘッドフォン
サイズWxHxD 292×47.6×190(mm)
重量3.81Kg 消費電力6W
定価¥280,000 $ 2500
DAC chip:TI PCM4104 for the main output,TI PCM5122 for the headphone out

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まえがき

主任設計者であるJim Kinne(ジム・キニー)氏は、CDが登場し始めた頃にアナログに近い音を目指したWADIAブランドでマルチビット型DACを作り一世を風靡した人物です。
現在もWADIAは存続していますが、その魂はEXOGALにこそ受け継がれており、一見馴染みのない米国新興ブランドですがその来歴は十分信用に足ると考えてよいでしょう。
偉そうに設計者の能書きを垂れたわけですが、色々な製品に触れているうちに同じブランドであっても音決めに携わる中心となる製作者が変わると製品の設計思想音作りが大きく異なって音が大きく変わってくるという体験をしています。先に書いたデノンのアンプでも、一昔前のAEシリーズと現在の同じグレードのアンプを聞き比べても一聴して同じメーカーだと思えないような音の変化を聞くことが出来ます。

導入経緯

USB入力は32bit/384kHzまでのPCMと、DSDはDoPによる5.6MHz(DSD128)まで完全対応。
スペックばかりを追うつもりはないですが、ここまで充実しているのは珍しい気がします。また明らかにその他のデジタル入力よりもUSB接続の方に重点が置かれており、USBを主に利用する自分にとっては嬉しいところです。
高精度デジタルボリュームを搭載しており、パワーアンプに直結することができます。私の場合それまでP社の定価で40万ほどのプリアンプを使用していましたが、DAC直結にしてみても聞き比べても全く遜色なかった為それを売り払いDACプリとして利用しています。もっと高い製品であればまた違った結果になるかもしれませんが、DAC複合機によくある”なんちゃってボリューム”などではなく、十分に使用に耐えうるボリュームだと思います。
またここまでなら品質はともあれ今や珍しくもない機能なのですが、面白いのはリモコンだけでなくスマホによる音量調整ができる点。専用アプリをインストールしておくと、手元でボリューム調整、入出力切り替えができます。また視覚的にも分かりやすく、大変重宝しています。
もう一つ比較的珍しい機能として、RCAアナログ入力も1系統装備しており、24bit/96kHzでA/D変換してくれるため、簡易プリアンプとしても機能します。
ヘッドホン出力は可もなく不可もなくと言ったところで、単体ヘッドホンアンプとしての機能を重視しての購入は控えた方がいいかもしれません。とはいってもそれはSENNHEISER HD800クラスを鳴らそうとした場合の話であって、そこまで求めなければドライブ力不足を感じる事はありますが十分いい音を奏でてくれています。(余談ですがライン出力とヘッドホン出力でわざわざ異なるDACチップを採用しており、かなり吟味して音づくりに臨んでいるのは間違いないようです)
ただし、なぜかAKG K701との相性の良さは特筆もので、今までいろんなヘッドホンアンプで試してきたのですが、この組み合わせに落ち着きました。

COMETの音質傾向

ちゃちなリモコンと中つ国製電源アダプター。液晶は音質に考慮したとはいえ見づらいし、裏返せばアクリルのパネルと所有する喜びに繋がりそうな高級感は感じ辛いこのDAC。しかしその分削減されたコストが全て音に集約しているのでは!と思わせるほど魅力的な音を奏でます。
深く豊かな重低音、ストレスなく自然に伸びる繊細で滑らかな高域、そして密度感のある中域。どっしりした中低域に基づくピラミッドバランスの安心感のある音色がスッっと左右、奥行ともきちんと広がる。
解像度も非常に高くエネルギー感にあふれたメリハリのある音は、どちらかというと若干脚色されたような、自然美というよりは人工的な美しさすら感じる。しかし絶妙な匙加減でキツさが抑えられており、一音一音に意識を向けるのではなく全体をひとまとまりの音楽として聞けるような素地が醸成されているのだろうか、高解像度故の聞き疲れや曲の録音状態による相性がそこまでシリアスではない様だ。

比較試聴してみて

片やエントリー帯、片やミドルエンド。価格でいうとおよそ四倍というクラスが全く異なるに製品の比較なので、音質傾向の差よりもクオリティ差がモロに出てしまい勝負にならないのでは、と予測していた。確かに二つのDACの間には価格差の通りの音のクオリティ差が存在するのは事実だ。しかし、rDACは先に書いたようにその音づくりの上手さのおかげで、音質のクオリティがそのままリスニング時の不満へと直結しないのである。時に、その失われた情報量のおかげでむしろ聞きやすく感じられたこともあるほどである。いくつか試聴した音源で感じたことを具体的に書いてみようと思う。

Unter Donner und Blitz (雷鳴と稲妻), Op. 324 (arr. for string quintet) [Jokesより / Quintetto Bislacco]

オーディオチェックには必ず使用する一枚。確かな演奏技術を持つにもかかわらず全力でおふざけをするという、どこかしらユーチューバーに通じるイタリア男らしい不真面目さと遊び心、そして何より音の良さが魅力。ハイエンドオーディオショウで講演に使われていて知ったので間違いないだろう。
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rDAC:中域にはしっかりとした厚みがあり、クインテット五人の弾けるような勢いのある演奏が楽しめた。
COMET:切れ込むような鋭さと響きが増えたかのようで楽器の質感が高まったようにすら感じられる。。五人の位置関係が明確にわかるような空間が形成され、全員の演奏が合わさるにはその迫力に圧倒されそうな実体感を伴った演奏が楽しめた。

ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35 第1楽章: Allegro moderato [チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲より Kyung-Wha Chung]

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rDAC:音が元気で力強く、チョンキョンファの情熱的な演奏とも相まって、曲の進行と共にダイナミックな雰囲気が十分に感じられる。
COMET:細かい響きまで逃さずさらけ出すため、情熱的なだけではなく時にどこかヒステリックさすら感じさせる様な演奏。サウンドステージが広く奥行きも出るのでオーケストラの各楽器の位置までが明確に見えてくるよう。またキョンファの演奏にばかり目が行きがちだったが、彼女の舞台を作り出している他の奏者の調べにも意識が向き、彼女が主役ではあるが独演ではない事を思い出させられる。

とまどい→レシピ[みかくにんぐッ!]

別に音が良いわけでも悪いわけでもないスタンダードなアニメソング。多用される電子音、三人の声、バンドのバランス。そして対照的な三人のキャラクター性が出てくるかどうか。そして一番の聞きどころはサビ以降で一気にインフレする情報量をさばききれるか。
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rDAC:アニメのOP映像冒頭部分の様に三人が仲良く元気よく歌っている様子が目に浮かぶようだ。
低域の満足感があるが、サビ以降は塊になってしまっているきらいがある。
COMET:低域の沈み込みが増し、ハイハットが"音が鳴っている"から"演奏されている"ように質感が良くなった。サビ以降の伴奏と言った細かい部分まで過不足なく描き分けられている。
小紅はおどおどと、紅緒はノリノリで、真白は舌っ足らずにと3人のキャラクターが持つ性格がその歌声に存分に反映されており、所々で挿入される独白調の台詞なんかは聞いているとキュンキュン萌えてしまいそうになる。

白金ディスコ[歌物語より 阿良々木月火(CV:井口裕香)]

当初は詳細を書くつもりはなかった曲だが、適当に色々流しているうちに、今回の比較試聴で最も差が出てしまった曲だったので記録しておく。
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rDAC:伴奏はともかく、ボーカルがベタッと広がってしまい聞くに堪えない。最近久しく感じる事が無くなっていた、いわゆる"音が悪いアニソン"と呼ばれるような残念な感じがいかんなく発揮されてしまった。
COMET:さっきまでの酷い再生音が嘘のように、ボーカルが伴奏から浮き上がるように中央に定位する。
2番から3番にかけての、飛び跳ねる様な可愛いディスコ、脱力してしまうようなどこかやる気のないディスコといった台詞群が本当に表情豊かに再生された。
DACの相性なのか、それともケーブルのせいなのか。これほど差が出た理由は謎である。

あとがき

rDACからCOMETへの変化は、情報量の増加、音の広がりの向上、音の質感の改善といった、誤解を恐れず分かりやすく例えればCDプレーヤーやDACを上位機種に変えた時に感じられる音質向上そのもの。
しかし繰り返すけれど、rDACに関しては音楽を聞く上で大事なニュアンスをスポイルされることがないため、その価格差を考慮するととんでもなくクオリティが高い音が出る、コストパフォーマンスに優れるDACと言えるでしょう。
余談ですが、良くも悪くもrDACはそのクオリティの高さが災いし、一時期はオーディオショップへrDACを持ち込み比較試聴させてもらったりもしましたが後継者探しの旅は難航を極めました。中でも思い出深いのは、価格とデザインで好みだったBMCのPureDACと同条件で勝負させる機会があったのですが、低域のクオリティが全く勝負になりませんでした。PureDACの内部はあれ程充実しているのにそれだけの差が付いてしまうとは思いもしなかったので、物量差がコンポーネンツの性能差に直結しない事を知るいい機会になりました。

おそらく、他のスピーカーやアンプがミドルクラス未満の場合やケーブルが付属品であったりする場合は、他のコンポーネンツやアクセサリーに投資した方が遥かに低コストで音に大きな改善がもたらされるのではないだろうか。
またこれは最近自分が体験したことだが、スピーカーリスニングに於いてはセッティングが命といっても過言ではない程音に重大な影響を与える。
もしこの二機種で悩んでいるのであれば、とりあえずそういったオーディオシステムの基礎体力を十分に備えたコンポーネンツを揃え、さらにセッティングを突き詰めてからDACの更新に踏み込んでも遅くはないのではないか、という私個人の考えをもって、比較試聴記事としたい。