はつゆきさくら ~あずま夜シナリオ~ プレイメモ
ゴーストに関する噂を調べていく中で出会った犬チック後輩、あずま夜。特に奇人変人揃いのホワイトグラデュエーションの中で比較的常識人的ポジションの彼女だが、そんなあずまも心の闇を抱えていて……。
私はなれなかったですから
「なんなんだろうなぁ。てめぇもそいつも、特別立派な奴とは思えないが、無遠慮に人に注文を付ける図々しさは、どこからきてるんだろうな。俺が立派になったとして、それが嬉しかったりするのか?どういう理屈だ。倒錯してるんじゃねぇのか」
「は、はぁ……。いや、なんででしょうね。私も別に、誰にでもちゃんとしろとか言うわけじゃないですが……。それは、先輩が立派になれる人だと、思えるからかもしれません。」
「なに?」
「でもいろんな事情でそれが阻害されていて……なかなかそうなれなくて、見てるこっちがはがゆくて。だから、応援したくなるのかもしれませんね」
「……てめぇなんぞに、俺の何が分かる」
「分かりませんよ。先輩のことも、誰のことも……。ただ、私は……私はなれなかったですから」
『自分は貴方の事を"こう"思います。だから"こう"あってください。』なんていうのは価値観の押し付けで、貴方何様なの?と言いたくなるような傲り以外の何物でもないと思う。
人間一々考えていること全てを言葉にして表現するわけじゃないし、ようやく出てきた思考の内の幾分かの言葉ですら、その人のうちに根差している価値観で選ばれた言葉たち。だから送り手とまた異なる価値観を持った受け手の間で揺らぎが生じる。長年付き合ってきた人であっても、自分がポジティブなニュアンスを込めて言った言葉をネガティブに受け止められちゃったりしてぎくしゃくすることもしばしば。歯がゆいなぁ…。
でもあずまは"先輩の事も分からない。だけど応援したい"、という表現をしていて、あぁなるほど、ランと同じなんだと感じたり。
初雪と言うのは思わず"応援したくなる"主人公なのかもしれないな。ゴーストの王として生まれ、自分のあずかり知らぬ怨念の復讐の為だけに育てられてきた存在。自分でもその自覚がありその運命を受け入れようとしつつも、心のどこかでは普通の世界になじめない自分を苛立たしく思っていて、その割り切れない不安定さがランや綾、そして夜と言った少女たちの母性本能をくすぐってしまい、なんとかしてあげたい、応援してあげたいと感じるのかも。と言ってもまぁ勝手に応援され期待を抱える側もそれが重荷となって辛いのだけれど。ああやっぱり歯がゆいなぁ……。
あずま夜の"復讐"
「私、やっぱりこの街を憎んでいるんだ。復讐がしたかったんだ……」
あずま夜は呪われている。3年前のアイスダンスの大会で期待を一身に浴びていた選手が転倒して大けがを負ったのは、あずま夜が呪いをかけたからだ。そんな根も葉もない噂が流れだし、誹謗中傷はどんどんエスカレート、周囲や家族にまで累が及ぶようになったが、負けん気が強かった当時の彼女は出場を強行。しかしその試合でけがを負ってしまう。
「誰も私のけがを憐れんでくれなかった。それどころか……それどころか、指を挿して、糾弾したんです。いいざまだって。因果応報だって。」
「だって私、何もしてないのに、怪我をして、ざまぁみろってののしられて」
あずまはどれほど無念だったであろうか。
自分の全くあずかり知らぬ事情で貶され、謗られる。そんなもののために出場を諦めることなどできるはずがない。アイスダンスをやらせてくれる家族への感謝の念を強く持ち、日々練習に励む彼女が。そんな非難も吹き飛ばして見返してやる!とばかりに反骨心全開で意気揚々と出場したんじゃないかな。
あずまが怪我をしたこの3年前の試合は作中ではたった3クリックで終わってしまいあまり触れられていないけど、それはとてもじゃないが酷いものだったのだろうと言うのは想像に難くない。
井口のネガティブキャンペーンによってあずまがどれだけ華麗に滑り技を決めようとも拍手や歓声一つ上がらない、それどころか会場中からの負の感情を一身に浴びての試合だったんだろう。アイスダンスは詳しくないのでフィギュアスケートに置き換えて考えると分かり易い気がするけれど、そんなアウェイの状況で淡々と技を決めていくのは当時のあずまでなくともよほど強靭で図太い精神の持ち主でもないと不可能だろう。井口の呪いはこうしてあずまの身に降りかかったのだ。
「私、この春に、引っ越すんです」
「そう、なのか」
「なんだかこの街の思い出は、辛いことばかりだった気がします。私にとっても……。やっぱりそれって悔しくて。
私、証明したいんです。私は何も悪くなかった。誰も呪ってないし、呪われてなんかいない。もう一度、大勢の前でちゃんと演技をして……自分はこんな立派に滑れるんだって、見せてやりたいんです。
家族にも……。貧しい中で、私にスケートをさせてくれた、パパやママにも。そうして、この街を去りたいんです」
――――
「けど、ここでやめたら、私は負けたことになっちゃう。本当に、呪いの姫になっちゃう。私は誰も呪ったりなんかしていない。だから、誰に遠慮することなく、大会に出ていいんです。出たいんです」
心の傷を負ってアイスダンスから遠ざかっていたあずまが復帰しようとしたきっかけは街から引っ越すことになったから。ありもしない罪によって誹謗中傷されたまま出ていくことは納得いかない。私は呪われてなんかいない。そのことの証明と、過去の自分と決別し、卒業するためにも今度の大会への出場を決めたのだった。
そう決意したあずまに、未だ続いている井口の呪いが降りかかる。井口の従妹が恨みを募らせあずまにちょっかいをかけたのだ。過去の因縁が続いていた事でショックを受けたあずまは3年前の自分、自分の生霊を反魂香で召喚する。自分を呪ったこの街に、復讐するために。
過去の自分からの"卒業"
「なんでかまうのかって、聞いたな」
「俺も不思議だったよ。なんでこんな面倒なことをしているのか。お前と俺は、似ている。
失われたものを求めて、復讐しようとあがいている。似ているんだ。
俺は、ある冬に、大事なものを失った。
あの子だけが、俺にとって唯一の家族で、唯一……俺に生きる意味を与えてくれた。
あいつは、ただあそこにいて……ずっと俺の将来だけを願ってくれた。それだけの存在だった。なぜ、討たなければならない。なぜなんだ、あずま……。」
そんなあずまの姿を見た初雪は共感を覚える。あずま夜と言う少女は自分と同じ過去の呪縛にとらわれているゴーストなのだ。そしてその呪縛から逃れようともがき苦しみながらも春に至れていない存在なのだと。
「それで、どこに行けば良いのか分からなくなった。心の仲にある、優しい風景に戻りたいと願うことだけが、唯一の希望だった。
そのために、復讐をしなければならないと思いながら。
でも知っているんだ。……本当は、知っている。
そんな場所は、本当はどこにもない。あるとしたら、俺の心の中だけだって。
多分、それには終わりがないんだって、なんとなく分かっているんだ。
俺は……どうしたって、たどりつけないものを求めているんだ。
俺は世間に馴染めなくて、けど、そこを去るまでもなく居座り続けて。無理はどんどん大きくなって、その圧力がきっと俺の大事なものを壊してしまったんだってきっと分かるんだ」
「探し続けるしかないんだ。
消えてしまったなんて、認めることは出来なくて。
例え狂っていると言われても、探し続けるしかない」
「叫び続けていれば、春に辿り着けるって、思っていたのかもしれない」
「だけど、お前の願いを叶えることができたら、俺も少しくらいこの街に何か……綺麗な足跡を残せるような気がするんだ」
こうして境遇の似た二人が出会う事は、初雪にとって過去の自分と向き合う契機になったんじゃないだろうか。
全体的になんだかイチャラブ成分が不足気味のはつゆきさくらの中でもバレンタイン祭辺りからは見ているだけでこそばゆくなってくる感じで……良いぞもっとやれ!!
ところでナイトメアとのおにーちゃんプレイはまだですか(蹴
#chapter15 3月1日のカンテラオーナーと初雪の会話、3月19日のサクヤの意味深なセリフはまた今度
よみがえる悪夢
彼女は一生懸命に踊りたいだけだった。。無理をしてでも支えてくれる家族のために。何よりも、ステージの上でなら輝ける自分のために。そんなあずまの願い虚しく、3年前の亡霊は再びステージに立つあずまの前に立ちふさがる。会場に響き渡る怨嗟の声。卑怯者!ひっこめ!と。
絶望したあずまはリンクの呪いを発動させようとするが、初雪が諭す。
「聞けよ。野次だけじゃない。てめぇを応援する声だって聞こえるだろ」
「あずまぁぁ、がんばれ!!!」
「よっちゃん、ふぁいとー!」
「ふれぇぇえふれぇぇぇあーずーま先輩ぃぃぃ!」
「エルオーブイイーあ・ず・ま!!」
「がんばれ、2年!」
「みんな……」
「なにより、俺がいる」
「……あ」
「あずま、お前は生きろ。俺が生かしてやる。信じて、踊りきってみろ」
「3年前も、こうして近くにいてほしかった」
「あぁ、一緒にいるから。もう一度、踊るがいい」
「うん……私の事、守ってね」
「あぁ。ゆっくりと、安心して……踊れよ。
そうして、ゆっくりと眠れ、ゴーストよ。
バニッシュだ」
あの時とは違う、応援してくれるホワイトグラデュエーションのみんながいる!
見事に踊りきった彼女は、3年の時を経てリンクの上で見事に復活を遂げることが出来たのだった。
あずま夜、卒業おめでとう!!
ところで3年前の"エキセントリック"だったころのあずまと言うのももっと見てみたかった気がするw