なつくもゆるる レビュー(再掲)

 前回に続いてもう一個>挨拶

 こちらは一応自分が真面目に書いた最後のレビュー記事になってます。日付は2013年7月21日。この頃になると単にプレイして感じた感情を並べるだけでなく、お話の内容や感じたことをなるべく後から見返すことが出来る様な形として残せないか、という方向で模索し始めます。その手段の一つとしてエロゲのシナリオそのものを”あらすじ”として残そうという試みを当時プレイして大きく心動かされた”なつくもゆるる”で試金石的に試してみたのがこの記事です。

その結果は……見て頂ければわかるのですが、かかった時間の割にリターンが少ないというか、少なくとも自分が後から見直してみても「ふーん」で終わってしまう残念な感じに。こんな記事でも結構時間かかったんですよ……orz

このかけた労力の割に無駄だったという経験とべるんさんの"はつゆきさくら"の記事を拝見していくうちに、自分がプレイ中のエモーションをメモしたものを後からロードし直しつつまとめる"プレイメモ"という形式が今のところ一番求める者に近いかなぁ、と言う事で"もしも明日が晴れならば"プレイメモにつながるのですが、ってそういえばあれも書き書けでほったらかしじゃん(

前書きが長くなりましたが、役に立つのか立たないのかよくわからないあらすじ付きの”なつくもゆるる”レビューよろしければどうぞ。

なつくもゆるる (すみっこソフト)
総合:85    
シナリオ:8 テキスト:10 キャラ:8 音楽:7 絵:8 システム:8  お気に入り:当麻姫佳

 

いったいここで何が起こっているんだろう? どうしてこんな場所に自分たちは取り残されたんだろう?

調べていく中で少しずつ分かっていく世界の秘密。

自殺病の本当の意味。 重力の異常。 狂っていく時間。 幼いことの本当の意味。

夏休みの学園で見つけた、世界の終わり。 少しも嘘なんかじゃない、本当の世界の終わり。

そして、世界の終わりを許さない、少年と少女たちの物語。

 


『なつくもゆるる』 OpeningMovie (natsukumo-yururu OPMovie) - YouTube

 

渡辺僚一率いる新生すみっこソフト、春夏秋冬シリーズ第二弾?
実は私、氏の作品は同ブランドの前作「はるまで、くるる。」と「すきま桜とうその都会」しかプレイしておりません。前者で不覚にも感動してしまったため、その四季シリーズに名を連ねる本作も只では終わるまい、と期待してました。
まさかいないとは思いますが、万が一偶然にもOPとパッケ絵だけを見て「うっひょー、可愛いロリっ子達と一緒にイケナイ夏休み満喫するぜ!!」って方がいたらご愁傷様。よくもだましてくれたぁあああああってなること請け合いですよ!

 

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シナリオ:8

ライターと前作から予想はしていたものの、やはりというかロッリロリな絵と夏の香り漂う爽やかなOPからは到底想像もできないような壮大なSF作品でした。

シナリオは序盤の出来が特に良く、物語に引き込まれます。

夏休みが始まり、どこか訳有り気な学園で妹の姫佳やミステリアスな少女、紫穂といったイレギュラーも加わってこれから何か楽しいことが始まりそうな予感―!
しかし一転、学内から人の姿が消え、閉鎖、そして停電。さらには見つかった死体と訳が分からないまま理不尽に襲い掛かる死といった序盤のサスペンス的雰囲気は次が気になって仕方がなかったです。

またルート固定で読み進めるごとに徐々に設定や伏線が明かされていくわけですが、その表現の仕方が珍しい。
端的に言うと、個別ルートで明らかになった情報が、次のルート以降では既知の常識として認識されている、と言った感じです。

 

(以下ネタバレ部分は反転してあります。)

具体的には姫佳√終盤で重力が感じられるようになると次のりねルートでは予め重力を扱える状態で始まる。そしてりねルートで自分たちがヒトを死に追いやる可能性があるマンイーターであると自覚すると、以降のルートでは最初からマンイーターとして扱われていることになる、といった感じでループものでネックとなりがちな既知の情報の処理を上手く設定に組み込んだなー、と言う印象です。
しかし一方で、同じ状況で同じ人間が全く異なる常識を持っているというその大幅にズレた世界に違和感を感じる事もしばしばあって、一辺倒に褒められるものじゃない気もします。ただこれは、我々プレーヤーがプレイしているのは実際に紫穂が行ったシュミレーションのほんのごく一部であり、本当は各ルートの間には何万何億回もの試行が存在するため、その分の認識と感覚の蓄積の結果だ!という伏線としての意味も込められているのかもしれません。

あと本作をやって感じたのは無駄な部分が少ない…(と言うのは機関銃のように下ネタやら飛ばしてくるので)語弊がありますが、作中のネタを一時の会話だけに留まらせることなく、上手く作品に組み込んでいるな、と言うのがあります。
“幼いことの本当の意味。”と謳っていますが、実際にロリーなキャラにきちんと理由付けをしたのは素晴らしい。これがほんとの合法ロリですね!(ぁ

作中ではこの他にも様々なネタが出てくるのですが、それがしっかり物語の根幹をなす部分に反映されているのは驚きです。
例えば主人公やヒロインが生物部に所属しており、ダブルタイドプールの実験(二つのプールそれぞれで一つ条件を変えて火かう対象実験をする)なんかも作品のテーマに関わっているなど、普段キャラクター作りや結びつきを深めるために物語のエッセンスがてらのなんちゃって部活動が用いられる作品が多い中、しっかり生物部していたことに加え、さらには物語の根幹をなす部分にもリンクしているのには驚きました。

数々の生物学薀蓄は普通に面白いし、ライター良く調べてるなぁと思わず感心します。生物学者としての昭和天皇や長沼毅氏の逸話をエロゲで見ることになるとは思ってもみなかったですw

SF設定に用いられる物理学も細かいこと考えなければ面白い。というか自分も数式弄るよりこういうトピックとして見た物理が好きだったんだけど、宇宙物理は行ける気しないです

そして何よりテキストが良い。怒涛の下ネタオンパレードの日常はプレイしていて吹き出しまくって大変でしたし(過剰摂取でやり過ぎ感もあるのですが)、文を細かく区切ったり、同じフレーズを繰り返すことで危機感を読み手に伝える様な表現、そして体の重心や筋肉骨格の動きを用いた独特の戦闘描写などテキストに勢いがあり、質量共に相当レベルが高かったように感じます。

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一方で目に付いたのは恋愛要素の薄さ
姫佳は過去の出来事が原因で最初からお兄ちゃんラブだし、りねは運命の人だと感じていたため好感度マックスでさらにはオナニーを見つかったことが発端と言うエッチから始まる恋だし、ユウリに至っては望まずも見せ合いっこした結果発情してエッチから始(ry 改めてみると酷いw

やはりくっつくまでの過程をあまり楽しめないのと、結ばれた後に困難が待ち受け、それが解決した途端すぐEDなのでイチャラブ成分がひっじょーーに少ないのが残念すぎます。Ifでもいいから二人のその後が見たかったですね。(一応えちぃシーン追加特典が店舗予約でついてくるのですが…姫佳以外の選択肢無いじゃねーかYO!)

またシナリオにおける、瞬間的な感動の大きさは「春狂>夏狂」でした。
ここではるくること”はるまで、くるる。”について少し触れておきますが、実はあのゲーム、好きかと聞かれればあまり好きではありません。序盤にハーレム(きゃっきゃうふふワールド)があるのですが、各キャラに何の感慨も持たない時点で意味も解らず散々3Pだの4Pだのが繰り広げられるえちぃシーンの数々に辟易としたものです。
ですがそれを補って余りある伏線回収の素晴らしさと、何より最後がズルいのですよね……。終わりよければ全てよし、ではありませんが圧倒的なカタルシスで迎えたEDに不覚にも感動してしまって、自信を持って面白かったと言えます。
では本作はどうか?
どうも終盤の魅力に今一つ欠けるように思いました。その理由は主人公が主人公たる由縁に欠けていたのではないかと思います。物語を大きく動かす何かしら特別な力を持っている、と言う点では問題ないのですが、なぜトーマだったのか、という事。
本作の根幹は主人公、当麻進の成長物語であり、終盤でトーマは壮大で重要な役割を任されるのですが、「あれ?これって別にトーマである必要がなくね?」と感じてしまったのが物語を楽しめなかった理由の一つでした。

具体的には人類が身体を残す可能性は“マンイーターが滅びずに栄える可能性”であるというのは事象の地平での紫穂の言葉だが、ここまではまぁ分からないでもないです。
問題はこの次“夏休みの始まりからの数日間の当麻進の行動。それが唯一の可能性”これが分からない。
しかも“当麻はあまりにも弱かったから過去にさかのぼって零佳を生み出した。
シュミレートを繰り返すうちに、トーマは強くなった。トーマはもう重力を渡れる”
トーマに艱難辛苦を与えて成長させた目的は、滅びゆく宇宙の情報と因果律を率いグラヴィティウォーカーとしてまだ新しい崩壊の遠い宇宙へ渡る事。
別の宇宙に行ったり来たりすることができるのは重力だけで、必要な能力は次のように語られています。
進の“どうして歩くのが俺なんだ?”と言う疑問に対する紫穂の返答は、
”必要なのは自分の重力をしっかり見る能力なんだ。自分の身体を、自分の重力を、コントロールできる能力”であると。
これはもちろん、進が零佳から学んだ術の事なのですが、あれあれ?やっぱり進が最期のグラビティウォーカーとして選ばれた理由になってないような?
より重力の扱いに定評のある、るねやユウリの方が適任じゃないか?と感じた訳です。

作中で重力を扱えるのは計6人と紫穂が明言している一方で、重力使いはるねとユウリ以外にも存在していたことを思わせる話を零佳が語っています。

ならばなぜトーマが選ばれたのか。考えられる可能性は紫穂が介入出来たのがトーマだけだった、と言う可能性。
ならばトーマと紫穂に何らかの接点が無くてはならないんですが…うーん、特になかったような?
何か見落としている可能性もありますが、結局トーマがグラヴィティウォーカーに選ばれたそもそもの理由と言うものは分かりませんでした。
(ネタバレここまで)


それと残念だったのは紫穂の扱いです。詳細は以下キャラクターにて。

えちぃシーンもちょっと唐突だったり詰め込みすぎだった感は否めないですね。まぁこれは尺の都合上仕方ないのでしょうけど。

プレイ時間は30時間ほど。ルートは姫佳→りね→ユウリ→紫穂で固定なので悩む必要はありません。

 

キャラクター:8


狭霧紫穂

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ゴスロリ服にスコップ装備で学園内を徘徊し、世界の終わりを望む謎の少女。
突然犬化するかと思えば人が変わったように真面目になったりしますが、これには深いわけが…。まごうことなきメインヒロインなのですが、正直扱いが良かったとは言えないと感じました。
本作の泣けるポイントは世界の終わりを待ち望みつつも、ヒトのために世界の存続を孤独の中模索し続ける紫穂の忠犬の如き健気さにあります。
でも肝心要の紫穂の存在は終盤の怒涛の説明口調だけで終始してしまっており、あまりに駆け足過ぎて自分はそこまで感情移入できなかったですね。
あと犬っぽさの説明が雑すぎてしょんぼりしてたり……w

 

当麻姫佳

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主人公の義理の妹。

最初からお兄ちゃん好き好きオーラ全開で甘えてきたり、他のヒロインにやきもちを焼いたりするのがもう可愛くって可愛くって!! 
しかし姫佳をただの神妹だと思ったら大間違い。
姫佳はなぁ……お漏らししちゃう神妹だったんだよっ!!!

おーけー、わかった。そうまで言われちゃしょうがない……お兄ちゃんと一緒にイきながらお漏らしだヒャッハァアアア!!!!!

ああぁっ!?ごめんなさいブラウザ閉じないでぇぇぇぇぇぇ。・゚・(ノД`)・゚・。


繰り広げられる数々のお漏らし話にお漏らしプレイにもうこっちも何度お漏らししそうになったか!!(最低
と、ともかくそんな趣向は無かったはずなのですが、新しい境地を見せてくれた神妹でした。
テーマは”共依存”と”大人になるという事”。ルート固定の影響で真っ先に攻略することになるんですが、コンプした後から考えると最も意味がある味わい深いエンドだったように思います。また、りねルートではその気丈さの片鱗を見せてくれます。心から兄を思う気持ちと気丈な振る舞いを見ると心が痛みます。。

 

 

鹿島ユウリ

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金髪クールな生徒会長。あれ、どうしよう。真っ先に思いつくシーンが”唐突にパンツ見せて主人公のロリコンぶりを測る”シーンと”見せあいっこしてから発情して求めてくる”シーンなんですけど……要するに痴女ってこと!?(蹴
普段クールなキャラがあたふたしてる姿ってなんか異常にクるものがあるんですが、やっぱりギャップ萌えなんでしょうね…!

 

 

水名りね

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正岡子規の”柿食えば 鐘がなるなり 法隆寺”の俳句をもじった口癖がチャーミングな生物部部長にしてヒロインズ唯一のロリ巨乳
いやほんと、最初はもう遂に業界のネタ不足もここまで来たか!とばかりに「ぶったまげたなぁ……」と白目剥きそうになったものですが、それが口癖となった理由が泣かせますし、いつの間にか可愛く感じるんですから不思議!
いつも元気で重くなりがちなシナリオを舜と共に明るい雰囲気にしてくれます。
シナリオは所謂えちぃから始まる恋愛なんですが、主人公の写真を使ってオナニーしていたのがばれた時の暴走しまくる反応が可愛すぎました。りねの心の友、ワウちゃんも良いキャラしてます。


三田舜

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ウレヅ(熟れた人妻の略)が大好きなルームメイト。どんなにシリアスな時でもボケる心を忘れない、頭がおかしいナイスガイ。(褒めてる
窓から落ちる時に律儀に毎回首から落ちたり、ユウリにわざと暴言を吐いて教えてもらったりと真性のマゾっけの持ち主。その奇行の数々には大笑いさせてもらいました。
頭の中はウレヅと下ネタばかりで占められているんじゃないかと勘違いしがちですが、実はその行動にすら深すぎて誰にもわからないような深謀遠慮が!?
執拗にボケまくるためしばしばウザく感じることもありますが、体を張ったムードメーカー的存在として無くてはならない存在だと感じますし、終盤の某シーンでの大活躍は本当に熱かったです。

 

主人公:8

当麻進

ロリコンでホモで妹のおしっこが大好きで神経質な主人公……もとい、作中では比較的常識人で、ちょっとぶっ飛んだメンバーのツッコミ役&イジられ役となっています。そこそこ特徴的なはずなんですが、如何せん周囲の人間が変な奴らばかりで結構影が薄いですねw

かなり特殊な人間ですが、その正体は物語を勧めるごとに徐々に明らかになっていきます。姉の零佳に教えられた術や、最終的にはびっくりするようなことまでやってのけますが順当に成長していくので主人公無双にならない点も良かったかな。

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音楽:8

OP,EDは素晴らしい!
特にOPはプレイ後にfull.verを聞いたのですが、二番が「単に一番と歌詞が違うだけ」というありがちなものでなく、微妙にピアノのアレンジが入ってるのが素敵。
EDはまさに紫穂の為に捧げられた歌で、しんみりと物語の結末を彩ってくれます。

それ以外のBGMも爽やかな夏や騒がしい日常のイメージにピッタリで強く主張しないものの良曲が多かったすが、個人的には不安感を煽るおどろおどろしい曲[brainstorming]や戦闘で用いられる曲[recounter]の出来が秀逸だったように感じます。

絵:7

はるくるが笹井さじ , 師走ほりお両氏の合同で、結構絵柄の違いから違和感があったんですが、今作は笹井氏単独原画となり、各キャラCGはもちろん、背景に至るまで塗りも丁寧ですしかなり高水準でまとまっていました。ロリプニっとした感じがとっても出てました。うん、やっぱりこうでないと!
SD絵も柔らかな絵柄で何とも可愛らしいですね。
ただ不満点もあって、戦闘による損傷や死体と言った描写がテキストではあるものの、実際に絵では表現されていないという事です。(首吊り男こと高木さんもずいぶん控え目な演出でしたし。あれは逆に怖くて良かったですが。)
あれだけ脱臼骨折しまくり人死にまくりの作品にも拘らず、実際に流血表現があったのは2枚のみ(もちろん破瓜はノーカンですよっ!?)

炉利な絵柄と残酷描写ってそのギャップで来るものがあるし印象にも残るし、話題性もあると思うんです。そこを敢えて入れなかったのはライターの拘りかブランドとしての誇りかは知りませんがずいぶん損している気がしました。

あとなぜなに物理学に関する説明のイラストはいくつかあったんですが、正直そっちよりも分かりにくい戦闘描写の図説の方が欲しかったですね。(村正みたいな感じで)
予算の都合もあるんでしょうけど、戦闘シーンもテキストすっごい頑張ってるのが分かって、しかも面白いんだけどすっごい分かりにくいしもっとCGを使ってくれた方が盛り上がったのは間違いないと思います。


システム他:8

コンフィグは可もなく不可もなく。
必要なものはそろっているので特に不満無しです。

ですが演出面ではキャラが一つの会話の中で立ち絵がコロコロ変わったり、ピョンピョン飛び跳ねたりと結構動きまくって、またそれが絶妙にテキストとマッチしてるんですよね。
本作以上に演出に力を入れている作品も多いですが、夏狂はかけている手間以上にキャラクター達の動きを感じ取れました。

総評:85

なんか色々文句ばっかり書いた気はしますけど、面白かったです。
序盤は先の展開が気になって、かなり楽しめましたし、独自の超弦理論や重力の解釈も。でもやっぱりどこか終盤に詰め込みすぎな感もあって、物語の収束のさせ方と言う点では前作は超えられなかった感はありました。SFが好きで下ネタが許容でき、普通のエロゲじゃないものを求めている方はプレイしてみても良いのではないでしょうか。

と言うか色々と惜しいなー、と思う点が多いんですよね。(上記の紫穂の扱いとか)
個人的にはテーマが変わってしまいますが、トンデモSF設定に頼らなくても赤い雪、ユウリの話を上手く使って、種の存続を巡るホモサピエンスとマンイーターの話なんかも見てみたかった気がしますね。
また姫佳との話はつまるところホモサピエンスとマンイーター共存の可能性を示唆した物だったのだからそれを掘り下げても面白かったかも?

ところで前作が「はるまで、くるる。」とどこかお朱門ちゃんチックなタイトルだったのに対して、本作は「なつくもゆるる」と味もそっけもなくなっています。
春狂に読点、句読点があるのに夏狂は一切ないのか。これは単なる推測なのですが、春狂が”繰り返されるリーンカーネーション(ループ)を終わらせるための物語”だったのに対し、夏狂が”ループを超えて新たに夏休みを始めるための物語”なんじゃないかと思います。最後の意味深な英語もありますし。でもこういう余韻の残し方は本当に良い物ですね!!

ともあれこの後は恐らく秋冬と続くわけですが、当然SF満載の世界の終わりシリーズ期待してますよ、渡辺先生ファッキン!

 

以下あらすじ。ネタバレ満載につき注意!

<夏休みの始まりと世界の終わり>

夏休みが始まったにもかかわらず主人公、進くんとルームメイトの舜くんは新型咽頭結膜熱に感染していたことで学園の外に出ないように言いつけられます。耐えきれずリビドーを発散しようとする舜に部屋を追い出された進はゴスロリ服にスコップ装備の不思議な少女、狭霧紫穂と出会う。

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(シホが怖がっていた入道雲?? 停電の夜、街を眺めているときにシホの身体にシホAの意識が流入した? 直後に水門の重力を感じている。 進が夜空に感じた違和感??)
ここは自殺病患者を隔離するために建てられた壁川学園。彼女の他に生物部部長の水名りね、生徒会長の鹿島ユウリ、療養中の兄に会いに来た妹の当麻姫佳の計6人で騒がしい日々を過ごしていた。しかしある夜、停電が発生する。教師も寮監もおらず、街を探索してみるとそこは誰もいない廃墟と化していた。一角にあるスーパーを調べると男性の首吊り遺体を発見する。ユウリを伴い遺品のスマートフォンを調べている行方不明のはずの姉の姿が映しだされた。

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判断ミス。試験失格。死あるのみ。姉に追い詰められ殺されゆく進は彼女の後ろでゆるる、と蠢く黒い影を見て、意識が途切れるのだった。

<麗佳との始まり、僕の終わり>

進は幼いうちに養父母に引き取られてから、義姉の零佳から術を身体に教え込まれていた。ある日、零佳が養父母に術を行使し半殺しにした場面に出会う。その場に居合わせた姫佳を壊すよう命じられた進だが、初めて姉の命令を拒絶する。怒った零佳は進の手首を壊し家出する。この時から姫佳の中で、兄の存在は自分を守ってくれる存在であり、大人の象徴となったのだ。

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スーパーの首吊り死体を目の当たりにして、死を強く意識した姫佳は遺品のパスワードを解読した”ご褒美”として性的行為を、その意味を理解してなお姫佳はねだる。
彼女にご褒美を上げるという行為で、零佳が進に課した恐怖と呪縛から解き放たれる事、また兄の為だけではなく、自分自身がその行為を求めていると姫佳は説く。これを聞いて進は姫佳の心もまた歪んでしまっていることに気付く。気持ちに気付きながらも真正面から相手にしてこなかったから。歪めた責任は歪め続けることでしか購えないと悟った進は姫佳と体を重ねる。

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姿を消した志甫は裏山で無残な姿で横たわっていた。紫穂の死と共に感じた体の重さは、身体が重力を感じ取れるようになったからだった。零佳と戦い、さらに自分たち以外の3人を殺害した航一郎を返り討ちにした進は戦いの中、重力を見る力に目覚める。一方で人を殺したにもかかわらずなんら感慨の湧かない自分に疑問を持つのだった。
翌日、零佳を学校で待ち受ける二人。零佳へと攻撃する進の背中めがけ姫佳が発砲し、それを避ける事で零佳への奇襲とするという、互いに依存し信じ合う二人にしかできない作戦。見事零佳を倒したが、その最期に”進は姫佳を殺しても平気な人間だ”と告げる。壁川学園は進を始め、人を殺しても平気な人間”マンイーター”を隔離するための学園だったのだ。しかし、零佳ではなく姫佳を選んだあの時から共依存となっていた二人は、マンイーターとヒトと言う種の違いを超えてめでたく結ばれたのだ。

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<回転しながら落ちていく夢>


柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺”。

孤独だった水名りねの口癖だ。重力を感じてしまうため、見ずとも近づく人が分かってしまう力を持っていることを理由に気味悪がられていたのだ。

カモノハシのワウと言う空想の産物と会話し、まだ見ぬ”法隆寺の人”と出会うまで無理やりにでも明るく振舞う事を決心する。

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自分がなぜこのような境遇に遭うのか。その答えに少しでも近づくため、りねは生物部に入部する。そしてついに部活動に見学に来た”法隆寺の人”、進と出会うのだった。

ある日、りねのもとを訪れると自分の写真での自慰行為中であったことを激白される。そしてさらに以前から運命の人と思っていた事を告白され、二人はそのまま恋人関係に。その時に感じた不快感の発生源を見ると、黒いゴスロリ少女を発見する。彼女を追いかけた先には重力が変異する穴があった。その穴を調べようとすると件の少女、狭霧紫穂に穴に近づかぬよう忠告される。

後日ユウリの生徒会長の力を使って紫穂が既に死んでいる生徒であることを突き止めた二人はその事を謎の少女に突き付ける。しかし彼女から帰ってきたのは”紫穂は確かにこの場所で自殺したが、別宇宙の紫穂の意思がエネルギーから体を再構築した”、と言う荒唐無稽な話だった。紫穂によれば、別宇宙とこの宇宙を結ぶことができるのは重力だけである、重力を感じられることのできる人間は地球上に6人であるらしい。そして唐突に、りねの推論が間違っていないというと、りねは激しく動揺するのだった。

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りねの推論。それは今まで自殺した生徒のクラスや寮の場所と死亡者数を照らし合わせると自分がその中心となっていたことから、自分が周囲の人間へと何かしら死に追いやる影響を与えているのではないか。ダブルタイドプールの比較対象実験でヒトデを排除したプールでは特定の貝だけが異常繁殖し、これを長期間行うと貝を捕食する貝が進化し生まれるのではないかという思考実験。増えすぎた草食動物の近くに肉食動物を放つと、そののストレスだけで草食動物の個体数が減る事。自殺と進化と生態系。つまり、りねは自分が突然変異した人類で、人類を食うマンイーターではないかと言うものだった。周囲の人間に悪い影響を与える事への負い目から自殺すら考えるりねを進は叱りつける。ならば新人類は悉く自殺しなければならないのか、自分だけが楽になるのかと。進の激励と、一緒に耐えるという言葉で、るねも自殺ではなく周囲の人間を自殺させずに済む方法を模索しようと約束する。

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翌日、停電が起こり、その対策を考えていると進は喜多雲から街の様子を見に行くように頼まれる。推論を確かめるべく市役所跡で壁川町の人口推移を調べると24年前から急激に人口が減少していた。調査の帰り、零佳が姿を現す。りねの推測は正しく、自分たちはマンイーターと呼ばれる存在であること。学園は自殺病ではなくマンイーターの行動を調査するためのものだったという事。マンイーター幼形成熟であること。そして学園では既に刺客が動いていること。急ぎ学園へ帰ろうとする進と足止めをする零佳。二人の戦いを止めたのは重力の強力な波動だった。

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その頃学園では喜多雲が本性を現し、ユウリを殺害。彼女の犠牲で逃げ延びたりねは物陰に隠れ震えていたが、精神崩壊寸前でワウとの会話によって覚醒する。マンイーターは捕食者、追われる存在であるヒトを恐れる必要はない。

トランス状態にのりねは難なく喜多雲を殺害。しかしトランスが解けたりねは人を殺した事実に耐えられず、心を壊してしまう。マンイーターの成れの果て、重力使いの誕生であった。心が壊れ、重力を制御しきれないりねは世界と自分の終わりを望む。

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襲い掛かる重力を避けながら、進は気づく。重力など関係ない、ただ抱きしめたいだけだと。肌が割け傷を負いながらも進はりねを抱きしめ、りねは正気を取り戻すのだった。後日、りねは生物部を解散する。それは彼女のけじめ。マンイーターと言う身の上に生まれたことを嘆き恨み続けた自己からの脱却。孤独な少女は愛する”法隆寺”と生きることをキスとともに誓う。「不幸をまき散らすことになっても、私は生きると」と。

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<崩れた世界の点の意味>


休憩室ではマンイーターの過激派によるテロ活動がニュースで放送されていた。それを見ていた紫穂は突然卑語を叫びだす。死が迫った際に「生きている間にちんまん叫んでおけばよかった…」と後悔しないため今のうちにやっておくらしい。

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いつの間にか自分の性器を見せることになった進は交換条件として誰かの胸を見せることを要求する。りねによってユウリは服を脱がせられ、図らずも二人は見せあいっこすることになるのであった。
翌日ユウリは進を呼び出し、昨日見せ合ってから興奮が収まらないからと体を重ねる。そしてその代償として自分を守るように依頼するのだった。喜多雲によって殺されると言う未来を予知で見てしまったから。一方進も喜多雲を殺す未来を予知し、既に喜多雲にその事を話し、殺されないよう逃げるよう説得していた。

学園教師の零佳によれば未来は変わらない。つまり予知が正しければ、ユウリが殺され、激昂した進が喜多雲を殺す事になるのではないか。そんな不安を抱えながらも二人は協力関係を開始する。

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ある日、裏山で重力で変異する穴を発見し二人で飛び込むと、そこは町外れの民家だった。予知からユウリを校舎に戻すことは危険と考え、ユウリは民家に残り進が学園へ戻った。
学園に戻ったが重力が感じられない。異変を悟った進は喜多雲に声をかけられると同時に襲い掛かる。激戦の末、舜の手助けもあり昏倒させることに成功した進。その頃ユウリは零佳と対峙していた。
ユウリの武術は祖父から教わったシベリア少数民族に伝わる武術、リーヌ。自身の重力を見た俊敏な動きと相手の内臓を一撃で破壊する技。

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しかし熟達の零佳にはどれも軽くいなされてしまい、遂に組み伏せられたユウリは零佳から本気を出すよう弄られる。かつてロンポービル崩落事件をおこした”重力使い”としての本気。苦痛の末にユウリは使わないと決めていた力を発現させてしまう。
進が駆け付けた頃には戦いは終わっており、水門で放心状態のユウリを発見する。ユウリは進に気付かぬまま、力を行使してしまった罪悪感からブラックホールを生成、事象の地平線へと落ちていく。

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進も飛び込むユウリと再会を果たすが、ユウリはそのまま粒子と化して消える決心を告げる。意思と関係なくブラックホールを生成してしまう自分、それはあまりにも危険すぎるため消えてしまった方が良い。独りよがりに陥ったユウリに進くんはブチギレ、勝手に股開いて誘っておいてどういう事だ、ブラックホールなんて勝手に蒸発しろ、と叫びます。するとあら不思議、二人は無事に帰ってくることができたのでした。

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 終末の日

事象の地平線を漂っていたトーマの意識は重力を辿る事で体を生成し、みんなに会いたいと強く願った。
すると気付けば目の前に紫穂がいた。この世界では自分の存在を強く持たないと粒子化し、事象の地平線に戻ってしまうらしい。エロエロな衣装の紫穂に、状態を安定させるためと誘われるまま行為に及んでいると途中で紫穂の意識が入れ替わり、レイプ魔扱いされてしまう。どうやら精神体としての紫穂Aと、あるいは肉体に強く引かれるものとして紫穂Bの2種類がいて、紫穂Bが出てきたらしい。ワウと共に街へ繰り出し姫佳、りね、舜、ユウリと合流するが、その時紫穂が呟く。「世界の終わりを見る準備が整った」

トーマと紫穂は星の無い宇宙に浮かんでいた。

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ここは宇宙の終わり、10^72年後の宇宙。陽子と中性子は10^32年で崩壊するため、すべての元素が崩壊したため星は無く、重力を理解できなかった“人”は体を捨て、ブラックホールから放出される反物質からエネルギーを得て辛うじて心を動かしていたが、ブラックホールのエネルギーが尽き蒸発する事でその心すら失おうとしていた。そして紫穂は体を捨て死を捨てる事に失敗した時の保険として生み出された存在であること。人類が身体を残す可能性は2000年初頭、マンイーターが地球で淘汰されずに栄える可能性にあることを突き止めた。そしてその可能性は夏休み始まりから数日間の当麻進の行動にかかっていることを。
紫穂は何度も繰り返して進に干渉し、過去に遡って零佳を生み出し術を教え込むことで重力を見る力を鍛え上げ、トーマは遂に重力を渡れるようにまで成長した。宇宙の最小単位であるヒモは開いた先端が時空につながっている。このヒモが閉じたものがグラビトンであり、時空と繋がっていないため行き来が可能なのだ。重力を自在に扱えるようになったトーマは、終わりゆく宇宙の情報と因果を連れて別のまだ新しい宇宙へ行くように懇願される。

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紫穂は自身を世界の終わりを望みながらも人類の存続を模索する、人の事が嫌いで、でも好きでたまらない忠犬のような存在であると語る。

しかしみんなとで出会い、トーマと話すようになって“終わらせるのがもったいない”と感じていた。今の紫穂にとっては世界の終わりを見るよりもトーマと話す方が良いのだ。トーマが笑うと私も嬉しい。嬉しいのが世界中に広がっていく。その連鎖が連綿と続いて来て、今もほんの少しだけどここにあるのだ。

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グラヴィティウォーカーは宇宙を渡る。零佳をいなし、重力をつかむ。今完全に理解した。宇宙ひもを使って宇宙に仕掛けた関節技を辿ればいいのだ!!意志を持った重力が俺だ!!!

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トーマは歩き出す。隣に紫穂を連れて。重力と因果律を司るユーマは消え去ろうとする紫穂を連れ戻す。「幸せになるのが人生の意味だ」と語る紫穂が、一番努力した紫穂が一番報われないなんて、そんなの嫌いだ!

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新しい世界で嬉しいを一緒に広げよう、と。

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夏休みの始まりの日。押し掛けてきた姫佳に起こされ、舜にボケられ、零佳に極められ、りねに笑われ、ユウリに冷やかされる。だけど、誰かが足りない気がした。裏山に行くと、そこには場違いなゴスロリを来た少女がいた。レイプ魔と間違われながらも自己紹介を済まし、みんなの元へ向かう二人。前にも全く同じことがあったような不思議な感覚。一面の緑を歩く夢。その中で一緒に歩いていたのはこの少女ではなかったろうか?
「トーマが笑うと私も嬉しいからな!」
二人は手を取りあい笑顔で歩き出す。
これから本当の夏休みが始まるんだって、そう思っていた。
「トーマ、ありがとうなんだぞ!!」

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He has never given up his conviction that if you just try all the doors one of them is bound to be the Door into Summer.

You know,I think hi is right.

なつくもゆるる

The endless.