できない私が、くり返す。 総評レビュー & 泉 詩乃シナリオ 感想

できない私が、くり返す。(あかべぇそふとすりぃ)

★★★☆☆  お気に入り:岩出山 未喜
GOOD

メインヒロインが遺した生きた痕跡

BAD

サブヒロインシナリオがイマイチ、ざっくりなタイムリープ設定、感動ぶち壊しの蛇足エピソード
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まえがき

hikari-sekai.hatenablog.com

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これまでの各ヒロインシナリオの感想を書いてきたわけだけど、
もしかすると実は私が本作に対してあまり良い印象は抱いていないだろうと察して下さる方もいらっしゃるかもしれない。
まさしくその通りっ!
決して面白くなかったわけではない。
心揺さぶられる場面がなかったわけではない。
むしろプレイしていて、とある場面では目の前が滲んで見えなくなってしまう程、
久しぶりに大泣きしてしまった作品だ。
そういう心揺さぶられる感覚、ひいてはそういった感覚に至らしめる作品は好きなはずだろう?
それにもかかわらずどうして本作が好きか嫌いかと問われると好きではない、
いやむしろ嫌いだ!と素直に言ってしまった方が手っ取り早いほど、
どうしようもなく本作にはネガティブな印象ばかりを憶えてしまうのだった。
そしてそれは単なるハッピーエンド至上主義者のビターエンドに対して感じる嫌悪感ではなく、
本作のあらゆる部分に見えてしまうある種の”ちぐはぐさ”に起因していると思う。
ネタバレ部分は反転。

◆解釈の振れ幅がもたらす主題の分散

詩乃シナリオのおさらいもかねて、公式HPに記載されているコンセプトを見てみよう。

「あの頃からもう一度やり直したい……」そう思ったことはありませんか?
過去の失敗や後悔、目の前で起こった事態に対して、過去に戻ってやり直すことができたら……誰もが一度は考えてしまうのではないでしょうか。
『できない私が、くり返す。』の主人公は、偶然にも時を巻き戻す『時計』を手に入れます。しかし、彼に『時計』を授けた女性は、ひとつの答えを告げました。
起こってしまった出来事は変えることができない
……本当にそうなのだろうか?未来は変えられるかもしれないし、それにより誰かを救えるかもしれない――
その疑問を胸に、成長した主人公は旅にでます。
人を救う旅の途中で、彼は不治の病を抱える一人の少女と出会います。彼女と心を通わせた主人公ですが、別れの日は突然訪れました。覚悟していた結末ながら、少女の死に涙する主人公の下へひとつの手紙が届けられます。そこに綴られていたのは、逃れられない運命を前に少女が残した「やり残したこと」
少女の運命を変えるため、そのささやかな願いを叶えるため、主人公は時間を巻き戻します。
果たして、主人公は未来を変えることができるのか?
少女のやり残した「ささやかな願い」を叶えることができるのか?
「できない私が、くり返す。」は、後悔を胸に抱えている人、過去をやり直したいと願う人
そんな方々に届ける、『時を繰り返す』物語です。

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本作のテーマは大きく分けて二つある。
一つは治療の手立てが亡くなった人間が余生をどのように過ごすのか、
周囲の人間がどう接するのか、といういわゆる緩和ケアや終活について。
そしてもうひとつが、不思議設定である”時を巻き戻す時計”をもってして未来を変えることが出来るかどうかだ。

”時を巻き戻す時計”

後者の時計についての設定は本作の物語の根幹に関わるにも拘らずとにかくいい加減だ。
とは言えそれ自体に不満があって、もっと明確に定義白だとか、
世界線の考察をしろだとかそういう不満であれば的外れなの批判かもしれないが、
本作はこの”振れ幅を持たした設定”が悪い方向に作用してしまったように感じる。
古川漣が陸に譲渡する際に時計の持つ能力について説明がなされれるが、その内容をまとめるとこうだ。

・何回でも、時間をまき戻して過去に行ける
・そのとき、記憶は現在の物を引き継げる
・時間をもどすためには、何の対価もいらない
・巻き戻せるのは、時計を譲渡された瞬間まで
・確定した未来は変えられない

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この確定した未来という表現が曲者で、
未来は変わらないというが過去に戻ってやり直す事で細かい事象には変化が生じる。
つまり、どこまでが“確定した未来”で、
どこからが”確定していない=変化可能な未来”なのかという線引きなされないため、
設定が非常に曖昧にされたままなせいで、受け取り手に解釈の幅が生じてしまう。

例えば未喜シナリオで篤史への香澄の告白シーンを見てみよう。

0回目:香澄がフラれたのを後から知る。結果として篤史と未喜が喧嘩をする。
1回目:香澄の告白が失敗するシーンを目撃。
2回目:告白途中に未喜に乱入させる。兄妹喧嘩となり、告白は失敗する。
3回目:告白途中に未喜に体調不良のふりをして乱入させる。
篤史と香澄が心配して未喜を匙に連れ込み告白はお流れ。

この後結局告白をその場で受け入れさせるのは諦め、
0回目と同じ流れの上で未喜が説得することで、香澄の告白が受け入れられる。
告白は失敗したという観点から見れば変化していないが、
その過程で状況が大きく変わっている場合もある。

今回の例でいえば、三回目だと篤史と香澄は告白自体がお流れになったものの、
どちらも未喜を過剰に心配する者として二人で抱えて店内に運んでいる。
大事な妹を実の家族同様心配する香澄を見て、篤史はどう思うだろうか。
明らかに二人の心の距離は大きく良い方に変化しているに違いない。

また陸自身も勘違いしていたように、
一度告白が失敗したからといってその事実がずっと引き継がれるわけではない、
つまり”確定した未来”の先にある“未確定の未来”は現時点では解らないのだ。(ややこしい)
てかオメー五年間も試行錯誤の旅を重ねておきながらその程度切り分けて考える事すら出来てないのってどうよ?とかってツッコミは無しで。

もちろん次がある告白と、一度しか訪れない死というもの同様に扱うのは問題があるが、
それでもこういった解釈の幅を与えられてしまう事で、色々な事を考えてしまう。
確定した未来=”人間の死”自体はいつか訪れるにしても、
それはどこまでの範囲が確定しているのだろうか。

亡くなる時間や日にちは本当に変化させることはできないのか?
出会った瞬間から取り組むことで少しでも症状を軽くできないのか?

物語がクライマックスへと加速しだすReCall編冒頭。
詩乃に対する贖罪と彼女を救いたいという強い意思の下、
漣からの言いつけを破ってまで過去に戻る陸。
『詩乃が癌で死なずに済むために、その治療法を確立するべく医学を学ぶ。五年で達成できなければ何度でもループを繰り返す!』
ニクい演出のムービーがあった場面なんかキターーー!って内心テンションあがりまくってました。

意気込む彼が、これからループもの主人公よろしくトライアル・アンド・エラーを繰り返し、新薬を開発しても詩乃を救う決定打にはならず、アプローチを変えて何度やっても同じように手から零れ落ちてしまう砂の如く救えない命を前に、「ああ、やっぱり今回も駄目だったよ」と平然と言い放ちリープしうようとした瞬間、ふと我に返って尊厳を貶めていた自分に気付いて自己嫌悪に陥り、泣いて悔いて悩み抜いた末に広がった新たなる可能性……
そんなもんはありませんでしたね、ええ!!!!!

人ならざる力で可能性を手にしているのに、それを人からちょっと説教されただけで、
目の前の事実をたった一つ示されただけでみすみす今更納得してしまうのか?
今まではあれだけ抗おうとしていたのに!?

詩乃に「あなたの一番になれなかったんだね」とまで言わせてしまって、
その事を後悔して過去に戻ったというのにそれでもなお漣の言葉を無条件で信じてしまうのか!!?
自分で一度でも試すことも無しに!?!??と全く理解に苦しむ。

読者にそういう安易な展開を考えさせる原因はというと、この設定の不徹底にあるわけです。はぁ……。

一見するとこれは自分の思った通りの展開にならなかったからクソゲー
というどうしようもなく身勝手な感情論に見えるかもしれないが、
そうではなくむしろ見せ方に問題があったと思う。

この原因について詳しくは「物わかりのいい主人公と物わかりの悪い読者」の項で。

いっそもっと適当な設定で十分だったのでは

ともあれ時計の設定をあいまいにしたのが意図的なのかそうでないか定かではないものの、
それ故時計の能力を見極めるというお題目が発生してしまい、
主題の分散が発生してしまったのも問題だ。

もし最初から時計の設定(ゆめの祖父の話なども含めて)を十全に使うつもりがないのであれば、
ループ設定はあくまで物語に花を添える副題だからそもそもそこにケチをつけるのはナンセンス!と言うのであれば、
ループ設定に読者の眼や興味が向かないようなシンプルな設定に落とし込むべきだったのだ。

例えば詩乃の死を悔やみ泣き疲れて眠り、翌朝起きると時間が遡っていて……的な、
有無を言わせぬ強制力として働く、ある種のご都合主義的な設定の方が良かったのではないだろうか。

最近自分が見た作品の話となってしまうが、同じような”適当なリープ能力設定”だと、
例えば僕だけがいない街におけるリバイバル。
直後に起こる悪いことの原因が取り除かれるまでその直前の場面に何度もタイムスリップしてしまう、
という能力だが作中では何故主人公がそんな能力を持っているのか、
またどうしてタイムスリップしたのかといった点には一切触れずに物語は進行する。

三葉「もしかして私たち…」 瀧 「もしかして俺たち…」
「「入れ替わってる~!?!?!?」

映画「君の名は。」において、三葉と瀧に起こった奇妙な入れ替わり現象の根本的な原因や詳しい原理については、
感覚的なイメージのみでその詳細が語られることはない。
(いやまぁ表面上の理由的だけ考えると三葉の方はまだ分かるんですが、
どうして瀧なのかはわからないまま。ここが個人的には君の名は。
伏線における数少ない不満の一つなんですが、それはまた別の機会があれば)

しかし、これらの作品は、どちらも特殊能力及び不思議要素に関しては、
そういった”些末な”部分には比較的考えが及びづらい……というのは言い過ぎだとしても、
ストーリー進行や演出のおかげで「それは今主題じゃないから考えるのは野暮である」
と言いたくなるほどの雰囲気づくりに成功していたように思う。

本作では未来を変えることができるのか?と設定自体に読者の意識を向けるようにしてしまったため、
そのいい加減な時計の能力やどこまでも予定調和的な物語に対して、
思わず突っ込んで考えてみたくなってしまうのは仕方のないことではないだろうか。

◆物わかりのいい主人公と物わかりの悪い読者

漣「だから、そこは諦めた方がいいよ。
何回、何十回と挑んでも、絶対に未来は変わらない」
陸「分からなじゃないですか。
何百回も何千回も繰り返せば、もしかしたら変わるかもしれません」
……
「――俺は本当に試しますよ、漣さん」
貴方の言葉が本当かどうか。

主人公は不思議な時計の持つ能力については基本的にプロローグ中の漣の説明通りに受け止めているのだが、
最後の設定『確定した未来は変えられない』かどうかに関しては懐疑的だ。
そしてそれを否定する為に、五年間もの間各地を旅しながら未来を変える機会を探し、試す生活を続けることになる。

ここまでがプロローグに相当するわけなのだが、
ゲーム開始時の主人公≒プレイヤーはコンセプトの通り“未来を変えることができるのか?”について肯定的、
つまり未来を変えてやるという意思の下物語を読み進めていくことになると考えられる。

しかし、実際には主人公たる陸とプレイヤー間の意識には大きな隔たりがある。
それは陸が試行錯誤の旅を繰り返してきた五年間という経験の重みだ。

プレイヤーは物語開始直後に不思議な時計を受け取り、
その前所有者がいう『確定した未来は変えられない』という過去に戻れる能力を自己否定するかのような設定と物言いに反発し、
主人公たる自分こそが変えてみせてやると意気込むのは当然のこと。
つまり時計を受け取った直後の陸のような状態といってもいい。

ところが数クリックの内に陸は五年にも及ぶ旅を終えて、
ヒロインズの住む街を訪れる。その目的はというともちろん新たな挑戦を行うためだ、
と書くと聞こえはいいが、この”未来を変える”為の人助けの旅というのが、
どこか厭世的で惰性的に続けられているのが主人公の言動の節々から伺える。

どこでどれだけ試そうとも未来は変わらず、陸の時計の針は漣と話したあの時から止まったままになってしまっている。
頭の中では漣の言うとおり『確定した未来は変えられない』のだという事実を受け入れつつも、
自身が積み上げてきた五年間に及ぶ時間と努力を否定したくない。

もしくは、『私に会いに来ちゃいけない』とくぎを刺した漣に会いに行くための口実として、
『未来を変えることが出来た』報告をしたかったのかもしれない。

いずれにせよこういった年月を経たことによる主人公の心境の変化がプレイヤーに伝わり辛いせいで、
物語の冒頭から重なっていると思われていたプレイヤーと主人公の間の認識に深刻なズレが生じるのだ。
このズレによる影響がいかんなく発揮されるのが、先に書いたRe Call編冒頭の部分となる。

◆主人公が自分的に合わなかった事による不満が大きかったかも?

各ヒロインシナリオを眺めていて思ったのは、
陸はどうも本気で未来を変えようとしているというよりは、
未来は変えるための旅の止めるタイミングを探し求めていたようにしか見えないのだ。
実はそう考えると先に書いたような本作に感じる不満は
納得こそできないものの理解はでき得るようになる。

だがあの薄っぺらい志乃以外のヒロインシナリオで、
そこまで察しろというのは酷というものではないだろうか。
認識のずれがあったにせよ、思考から言動に至るまで、
主人公の事がイマイチ好意的に受け入れられなかったのが
本作への不満に直結している側面はあると思う。

言い回しが一々大げさだったりして冗長な日常会話に、
ちょっと時代錯誤的な寒いギャグ。
それに詩乃のやりたいことに線を引いていく陸には正直ドン引きした。
デリカシーの欠片も無いというか、
解決したという事を視覚的に分かりやすくするためとはいえ、
やりたくもないけどしなくちゃいけない勉強を嫌々やらされている学生じゃないんだから……。

張り倒されたとしても文句は言えないのに、
それを目の当たりにしても文句も言わずに冗談で流そうとする詩乃の姿に心が痛んだ。

大体詩乃がしたいことは”恋愛がしたい”であって、”恋人が欲しい”じゃねーんだよ、バーカバーカ!!とブチギレそうになったんですが、実は伏線になっていたというね……。そんなダメ主人公のおかげで、病で死が目前に迫った少女が恋愛をしたいと言ったので、出会ってから数日しかたっていないのに図々しくも自分が恋人になってやると立候補したものの、女心を理解していない上に自分ではない誰かを重ねて見ていた事を看過されてしまい、死してなお恨み言を届けられるという勘違い男の悲惨な末路をプギャることが出来たのでよしとしましょうか!?(何

◆その他不満点や良かった点など

細かいことを言い出したらキリがないんだけどとりあえず詩乃のお礼アレルギーや、
ミキのクイズ好き、ゆめの知己に時計の存在を知る人物と言った、
何度も登場した割に特に生かされることがなかった面白そうな設定たち……。

特に残念なのはゆめの祖父が時計を持っていたって要素。
絶対シナリオに絡んで来るって身構えてましたもん。
そしたら結局ゆめとのフラグ形成にしか使われなくてズッコケましたw

五年間シノの事を思い描きながら、再会を切望しながらの日々は描かれることがなく、
再会特に感慨にふける暇も無く一瞬で終わってしまうのもちょっとなーと。

良かった点といえば、
デートで訪れた陶器展で生きた痕跡を何らかの形として残すことで生きていたことの証明をする方法を知った詩乃が、
まさかあんな形で生きた痕跡を残そうとするとは夢にも思わず面白かった……というと語弊がある気がしますが面白かったですねー。
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◆てかおまけエピローグのPiece of Memoryいらないよね?

物語に於いて自分は終わりよければ全てよしと考えている面があって。
例えば途中でどれだけ面白くなかったりグダったり不愉快だったとしても、
ラストからエピローグにかけて綺麗にまとめてくれていれば文句いえども面白かった!と言っちゃうんです。

で、本作も一応最後は綺麗にまとまったなーと思ってしんみりした状態で出てくるオマケエピソード。
もちろん期待してプレイするに決まってます。
で話の内容もどうやら時計の秘密や手にする経緯にまつわる話らしい……と期待したのも束の間。

なんですか、あれは!!!

なんで何回も爺さんの入れ歯はどこじゃったかのーなんて聞かされなきゃなんねーんですか!
これって何かのバツゲームなんでしょ!?

という感じでせっかくエンディングでしんみりした気持ちをぶっとばしてくれやがりましたよ、
このオマケエピソード……。

内容的にも大した話じゃなくて疑問や不満が解消されることもなく、
最後も普通でもうどうしようもない感じ。
なんという蛇足!!!
この使い古された言葉がこれほど似合うものもそうそうないでしょう。
ってことでもしこれから本作をプレイされる方がいたらオマケエピソードは忘れてしまうのがベストだと思います!!

◆感動ポルノであることに自覚的だが……

長々と不満を書いてきたわけだけど、
根本的な話として本作は余命わずかながん患者によって主人公が後悔を解消して一人すがすがしい顔で去っていく。
一種の感動ポルノのようなものだという側面があって、どうにもそこが気に入らなかった。

これ自体は個人的な好みによる我儘のようなものだからアレなんだけど、
面白いのは物語自体もどうやらそれに自覚的で、あの手この手でそうは見えないようにいろんな化粧はするんだけど、
それが逆効果というかあまりうまく作用していなかったこと。
おかげで結局その枠組みから抜けられなかった、終始チグハグな作品だったなという印象はかわらなかった。





泉 詩乃シナリオあらすじ

街中で出会い仲良くなっていった少女、詩乃は末期癌に侵されていた。そんな彼女をかつての憧れの人である漣の面影を重ねて見ていた主人公、陸は詩乃が遺した手紙に書かれた”もしも時間が巻き戻せたらやり残したことを叶えたい”という言葉を見て一念発起。彼女の願いをかなえるためにタイムリープ
詩乃がまだ元気だったころへと戻り、彼女から生きているうちにやりたいことを聞きだす。
・恋愛がしたい
・親孝行がしたい
・海にいきたい
・部屋を片付けたい
・お世話になった人にお礼を言いたい
・一日中遊びまわりたい
・SECRET
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恋愛がしたいという詩乃に陸は自ら立候補、詩乃も満更ではなく二人はめでたく恋人に。その後も徐々にやりたいことをこなしていく二人だったが、SECRETを除く6つ目、海に訪れた帰りに詩乃は倒れてしまう。入院中にねだられて陸が辿ってきた日々を語る。それに目を輝かせて聞き入る詩乃が陸に語った最後のしたいこと、それは”生きたい”という切実な願いだった。しかし詩乃の症状は徐々に悪化していく。自らの命が限界に近づいていることを悟った詩乃は陸が真っ先にクリアしたと考えていた”恋愛がしたい”という望みが未だに果たされていないと考えていた事をつげる。陸が詩乃の向こうに無意識のうちに漣の姿を重ねていたこと、助けてくれるのはかつてできなかった罪悪感からの義務感の為だとしか思えなかったこと。自分が死んだあと、出来る事は全部したという自己満足に浸る事が無いよう敢えて最期の別れに際してそれを突き付ける詩乃に何も返す言葉を持たない陸は詩乃の死に目に会う事も出来ず、アイリから遺言ともいえる手紙を受け取る。
そこには自分が漣の身代りに過ぎないかもしれないという疑念、陸への好意が綴られていた。陸の一番になれなかったことへの無念さがにじみ出る追伸を目にし、陸はタイムリープを決意する。それは詩乃を騙してしまった事への贖罪の為に、あのような別れで終わらせないために。叶えられなかった”恋愛がしたい”という希望、そして”生きたい”と願った彼女の為に。陸は時計で戻ることが出来る限界の時点、会いに来てはダメだという漣との約束を破ってでも過去へと跳ぶ。
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Re Call編

陸の考えはこうだ。詩乃が癌で死なずに済むために、その治療法を確立するべく医学を学ぶ。五年で達成できなければ何度でもループを繰り返す。
そう意気込みを話す陸に漣は冷ややかに返す。仮に癌を克服できたとしても、彼女が死ぬ運命は変わらない。別の病で死ぬ。それを克服したとしても……だと。それにループする度に心が擦り減らすことになるになるから、そんなの陸自身が耐えられないと。
漣がそう語るのには理由があった。漣を慕う年下の患者である奈月も余命幾ばくもない少女であり、彼女を救うために漣は何度も時を遡ったが彼女が亡くなる未来を変える事は出来なかったからだ。
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残りわずかな余命を懸命に生きる奈月の姿を見ているうちに、未来が変わらないのであれば後悔しないように生きようと考えるようになったと語る漣に陸も同調する。
運命を変える事をできないと納得した陸は、時計を使うことなく再び詩乃との出会いをやり直す事を決める。
心残りであった漣に対する行為を伝えることが出来て吹っ切れた陸は、再び少女と出会うためにやり直す。
詩乃と焦ることなく仲を深めていくことが出来た陸は、詩乃の”最期まで一緒にいてほしい”という本当の最後のお願いを無事果たすことが出来たのだった。
詩乃が遺した手紙には陸に対する感謝と愛が綴られていた。
陸は詩乃のいない町を後にする。彼女の墓前に時計を供えて。時計の所有権、彼女にいつでも会うことが出来る権利を置いて、詩乃の事を思い出にして。先の見えない未来へと後悔することが無いように歩み出したのだった。
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